FatFsモジュールは移植性に関して次の点を前提としています。
必要なのは FatFsモジュールの要求するディスク関数を用意することだけで、それ以外にすることはありません。既に動作しているディスク関数があるならその APIを FatFsに合わせるだけで済みますが、無い場合はほかから移植するか、最初から書くかする必要があります。定義されている全ての関数が常に必要なわけではありません。例えば、リード・オンリー構成では書き込み系関数は必要ありません。次の表に構成オプションと要求される関数の対応を示します。
ユーザ作成関数 | 必要となる条件 | 備考 |
---|---|---|
disk_initialize | 常時 | ffsample.zip (サンプル) その他web上に多数 |
disk_status | 常時 | |
disk_read | 常時 | |
disk_write | _FS_READONLY == 0 | |
disk_ioctl (CTRL_SYNC) | _FS_READONLY == 0 | |
disk_ioctl (GET_SECTOR_COUNT) | _USE_MKFS == 1 | |
disk_ioctl (GET_SECTOR_SIZE) | _MAX_SS >= 1024 | |
disk_ioctl (GET_BLOCK_SIZE) | _USE_MKFS == 1 | |
get_fattime | _FS_READONLY == 0 | |
ff_convert | _USE_LFN >= 1 | option/cc*.c |
ff_wtoupper | _USE_LFN >= 1 | |
ff_cre_syncobj | _FS_REENTRANT == 1 | option/syscall.c (サンプル) |
ff_del_syncobj | _FS_REENTRANT == 1 | |
ff_req_grant | _FS_REENTRANT == 1 | |
ff_rel_grant | _FS_REENTRANT == 1 | |
ff_mem_alloc | _USE_LFN == 3 | |
ff_mem_free | _USE_LFN == 3 |
次の表にいくつかのターゲットにおけるメモリ使用量の例を示します。テスト時の構成オプションはその下の通りです。数値の単位はバイトで、Dは論理ボリューム数、Fは同時オープン・ファイル数を示します。コンパイラの最適化オプションはコード・サイズとしています。
AVR | H8/300H | PIC24 | V850ES | SH-2A | ARM7 | x86 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Compiler | WinAVR(gcc) | CH38 | C30(gcc) | CA850 | SHC | WinARM(gcc) | VC6 |
_WORD_ACCESS | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 1 |
text (Full, R/W) | 12700 | 10686 | 11376 | 7730 | 8592 | 10520 | 7545 |
text (Min, R/W) | 8386 | 6980 | 7395 | 4930 | 5600 | 6636 | 4923 |
text (Full, R/O) | 6012 | 4874 | 5250 | 3556 | 3848 | 4656 | 3450 |
text (Min, R/O) | 4384 | 3774 | 3939 | 2684 | 2996 | 3416 | 2664 |
bss | D*2 + 2 | D*4 + 2 | D*2 + 2 | D*4 + 2 | D*4 + 2 | D*4 + 2 | D*4 + 2 |
Work area (_FS_TINY == 0) | D*560 + F*544 | D*560 + F*550 | D*560 + F*544 | D*560 + F*550 | D*560 + F*550 | D*560 + F*550 | D*560 + F*550 |
Work area (_FS_TINY == 1) | D*560 + F*32 | D*560 + F*36 | D*560 + F*32 | D*560 + F*36 | D*560 + F*36 | D*560 + F*36 | D*560 + F*36 |
_FS_READONLY 0 (R/W), 1 (R/O) _FS_MINIMIZE 0 (Full function), 3 (Minimized function) _USE_STRFUNC 0 (Disable string functions) _USE_MKFS 0 (Disable f_mkfs function) _USE_FORWARD 0 (Disable f_forward function) _USE_FASTSEEK 0 (Disable fast seek feature) _CODE_PAGE 932 (Japanese Shift-JIS) _USE_LFN 0 (Disable LFN) _MAX_SS 512 (Fixed sector size) _FS_RPATH 0 (Disable relative path) _MULTI_PARTITION 0 (Single partition per drive) _FS_REENTRANT 0 (Disable reentrancy) _FS_SHARE 0 (Disable shareing control)
次の表は構成オプションの設定値によりどの機能が削除されるかを示します。
Function | _FS_MINIMIZE | _FS_READONLY | _USE_STRFUNC | _FS_RPATH | _USE_MKFS | _USE_FORWARD | ||
1 | 2 | 3 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
f_mount | ||||||||
f_open | ||||||||
f_close | ||||||||
f_read | ||||||||
f_write | x | |||||||
f_sync | x | |||||||
f_lseek | x | |||||||
f_opendir | x | x | ||||||
f_readdir | x | x | ||||||
f_stat | x | x | x | |||||
f_getfree | x | x | x | x | ||||
f_truncate | x | x | x | x | ||||
f_unlink | x | x | x | x | ||||
f_mkdir | x | x | x | x | ||||
f_chmod | x | x | x | x | ||||
f_utime | x | x | x | x | ||||
f_rename | x | x | x | x | ||||
f_chdir | x | |||||||
f_chdrive | x | |||||||
f_mkfs | x | x | ||||||
f_forward | x | |||||||
f_putc | x | x | ||||||
f_puts | x | x | ||||||
f_printf | x | x | ||||||
f_gets | x |
FatFsモジュールはR0.07から長いファイル名(LFN)をサポートしました。ファイルに付けられた2つの異なる名前(短いファル名と長いファイル名)は、f_readdir関数を除くファイル操作関数において透過です。LFN機能を有効にするには、_USE_LFNを1,2または3に設定し、Unicode変換関数ff_convert(), ff_wtoupper()をプロジェクトに追加します。これらの関数は、option/cc*.cに含まれています。LFN機能は、加えてある程度のワーク・エリア(LFN操作バッファ)を必要とします。バッファ長は使用できるメモリに応じて_MAX_LFNオプションで構成されることができます。LFNの長さは最大255文字に達するので、LFN完全対応のためには_MAX_LFNは255に設定されるべきです。与えられたファイル名に対してバッファ長が不足した場合、ファイル関数はFR_INVALID_NAMEで失敗します。
LFN機能をリエントラント構成で使用する場合は、_USE_LFNは2または3に設定されなければなりません。この場合、ファイル関数はバッファをスタックやヒープに確保します。バッファ・サイズは、(_MAX_LFN + 1) * 2バイトになるので、スタック等のサイズはそれを考慮した十分なサイズでなければなりません。
コードページ | コードサイズ[bytes] |
---|---|
SBCS | +3721 |
932(Shift-JIS) | +62609 |
936(GBK) | +177797 |
949(Korean) | +139857 |
950(Big5) | +111497 |
LFNを有効にすると、選択されたコード・ページに応じてモジュール・サイズが増大されます。右の表に各コード・ページにおけるLFNを有効にしたときのモジュール・サイズの違いを示します。私たち日本人、中国人および韓国人は数万の文字を持ちます。不幸なことに、それは巨大なOEM-Unicode相互変換テーブルを要求し、モジュール・サイズは劇的に増大されます。その結果、LFNを有効にしたFatFsモジュールは、AVRを含む殆どの8ビット・マイコンにインプリメントされることができません。これは長い間私がLFNをインプリメントすることに興味を持ってこなかった理由です。
注: FATファイル・システム上のLFN機能はマイクロソフト社の特許です。商用製品でそれを有効にするときは、最終仕向地によってはライセンスが必要かも知れません。
CP932(Shift_JIS)でかつ非LFN構成のときは、拡張文字の小文字(2バイト英字・キリル文字・ギリシャ文字)に対して大文字変換を行わず、小文字のままSFNエントリに記録・検索されます。これは日本語MSDOSと同じ仕様となります。このため、非LFN構成で全角小文字を含むファイルを作成すると、NT系Windowsでそのファイルを開けなくなります。LFN構成では大文字変換を行います(NT系Windows仕様)。
ファイル関数のファイル名入出力はデフォルトでは ANSI/OEMコードですが、これをUnicodeに切り替えることもできます。Unicodeファイル名に関する詳細は、ファイル名を参照してください。
互いに異なるボリュームに対するファイル操作は、常に同時平行に動作できます。同じボリュームに対してはデフォルトではリエントラントではありませんが、_FS_REENTRANTオプションでリエントラントにすることもできます。この場合、OS依存の同期オブジェクト操作関数ff_cre_syncobj, ff_del_syncobj, ff_req_grant と ff_rel_grantもまたプロジェクトに追加されなければなりません。サンプル・コードと解説はoption/syncobj.cにあります。
あるタスクがボリュームを使用中に他のタスクからそのボリュームに対するファイル関数が呼び出されると、そのアクセスは先のタスクがファイル関数を抜けるまでブロックされます。もし、待ち時間が_TIMEOUTで指定された期間を越すと、その関数はFR_TIMEOUTでアボートします。いくつかのRTOSではタイムアウト機能はサポートされないかも知れません。
ひとつの例外がf_mount()とf_mkfs()にあります。これらの関数は同じボリュームに対してリエントラントではありません。これらの関数を使用するときは、アプリケーション・レベルで排他制御しなければなりません。
注: このセクションはFatFsモジュールそれ自体のリエントランシーについて説明しています。ディスクI/Oモジュールのリエントランシーに関しては何の前提もありません。
FatFsモジュールではデフォルトでは多重アクセス制御機能をサポートしていません。ファイルに対する多重アクセスは、そのアクセス・モードによって制限されます。一つのファイルに対する多重オープンは、それらが全てリード・モードのときに限って許可されます。書き込みモードを含む多重オープン、また開かれているファイルに対するリネームや削除、カレント・ディレクトリの削除を行ってはなりません。さもないと、そのボリュームのFAT構造が破壊される可能性があります。
_FS_SHAREに1以上の値をセットすることにより、ファイル単位の排他制御を自動で行うこともできます。この場合、上記のルールを破ったオープン・リネーム・削除を試みると、その関数はFR_LOCKEDで失敗します。
小規模な組込システムでのファイルの読み書きにおける効率の良いアクセスのため、アプリケーション・プログラマはFatFsモジュールの中でどのような処理が行われているか考慮すべきです。ディスク上のデータはf_read関数により次のシーケンスで転送されます。
図1. セクタ・ミスアラインド・リード (ショート)
図2. セクタ・ミスアラインド・リード (ロング)
図3. セクタ・アラインド・リード
ファイルI/Oバッファはセクタの一部のデータを読み書きするためのセクタ・バッファを意味します。セクタ・バッファは、それぞれのファイル・オブジェクト内のプライベート・セクタ・バッファまたはファイル・システム・オブジェクト内の共有セクタ・バッファのどちらかです。バッファ構成オプションの_FS_TINYは、データ転送にどちらを使うかを決定します。タイニー・バッファ(1)が選択されるとデータ・メモリの消費はそれぞれのファイル・オブジェクトで512バイト減少されます。この場合、FatFsモジュールはファイル・データの転送とFAT/ディレクトリ・アクセスにファイル・システム・オブジェクト内のセクタ・バッファだけを使用します。タイニー・バッファの欠点は、セクタ・バッファにキャッシュされたFATデータがファイル・データの転送により失われ、クラスタ境界の毎にリロードされなければならないことです。でも、悪くない性能と少ないメモリ消費の視点から多くのアプリケーションに適するでしょう。
図1はセクタの一部のデータがファイルI/Oバッファを経由で転送されることを示します。図2に示される長いデータの転送では、転送データの中間の1セクタまたはそれ以上のセクタにまたがる転送データがアプリケーション・バッファに直接転送されています。図3は転送データ全体がセクタ境界にアライメントされている場合を示しています。この場合、ファイルI/Oバッファは使用されません。直接転送においては最大の範囲のセクタがdisk_read関数で一度に読み込まれますが、クラスタ境界を越えるマルチ・セクタ転送はそれが隣接であっても行われません。
このように、セクタにアライメントしたファイルの読み書きへの配慮はバッファ経由のデータ転送を避け、読み書き性能は改善されるでしょう。その効果に加え、タイニー構成でキャッシュされたFATデータがファイル・データの転送によりフラッシュされず、非タイニー構成と同じ性能を小さなメモリ・フットプリントで達成できます。
ディスク上のFAT構造を操作している途中で、停電、不正なメディアの取り外し、回復不能なデータ・エラー等の障害が発生すると、処理が中途半端な状態で中断され、その結果としてFAT構造が破壊される可能性があります。次にFatFsモジュールにおけるクリチカル・セクションと、その間の障害により起きうるエラーの状態を示します。
赤で示したセクションを実行中に障害が発生した場合、クロス・リンクが発生して操作対象のファイル・ディレクトリが失われる可能性があります。黄色で示したセクションを実行中に障害が発生した場合、つぎのうちいずれかまたは複数の結果が生じる可能性があります。
いずれも書き込み中や操作対象でないファイルには影響はありません。これらのクリチカル・セクションは、ファイルを書き込みモードで開いている時間を最小限にするか、f_sync()を適宜使用することで図5のようにリスクを最小化することができます。
ソース・ファイルのヘッダにライセンス条件が記述されているので、利用の際はそれに従うこと。英語を読めない方のために以下に日本語訳を示しておきます。
/*----------------------------------------------------------------------------/ / FatFs - FAT file system module R0.08 (C)ChaN, 2009 /-----------------------------------------------------------------------------/ / FatFsモジュールは、小規模な組み込みシステム向けの汎用FATファイルシステム・ / モジュールです。これはフリー・ソフトウェアとして、教育・研究・開発のために / 以下のライセンス・ポリシーの下で公開されています。 / / Copyright (C) 2009, ChaN, all right reserved. / / * FatFsモジュールはフリー・ソフトウェアであり、また無保証です。 / * 用途に制限はありません。あなたの責任の下において、個人的・非営利的な / ものから商用製品の開発に及ぶ目的に使用・改変・再配布することができます。 / * ソース・コードを再配布するときは、上記の著作権表示を保持しなければなりません。 / /-----------------------------------------------------------------------------/
要するにFatFsはタダで自由に使えるということです。ソース・コードを再配布するときは、このブロックをそのまま保持しておくこと。このようにFatFsはBSDライクなライセンスとしていますが、一つ大きな違いがあります。特に組み込み用途での利用価値を高めるため、バイナリ形式(ソース・コードを含まない形式全て)での再配布については、条件は設けていません。その場合は、FatFsおよびそのライセンス文書についてはドキュメントに明記してもしなくてもかまいません。もちろんGNU GPLプロジェクトとも共存可能です。何らかの変更を加えて再配布する際は、矛盾しない他のライセンス(GNU GPLやBSDライセンスなど)に変更することも可能です。